物件が決まってから資金を考えると、間に合わない
飲食店の物件は待ってくれません。ようやく条件の合う空きが出たと思ったら、申込金の入金期限は数日、保証金の支払いは契約日まで、と話がどんどん進んでいきます。造作譲渡が絡む居抜きなら、前のテナントの退去日に合わせて引き渡し日が固定されていることもあります。
一方で、日本政策金融公庫の融資は申し込みから入金まで、面談を挟んでおよそ1〜2ヶ月かかります。信用保証協会の保証を使う場合はさらに時間が必要です。この時間差が、開業準備で最初につまずくところです。「いい物件が出たので今から融資を申し込みたい」というご相談をいただくことがありますが、その時点では間に合わないケースがほとんどです。
順番としては、物件を本格的に探し始める前に「自分はいくらまで借りられそうか」「自己資金と合わせて総額いくらの店を作れるか」の当たりをつけておきます。予算の上限が決まっていれば、内見の段階で「この物件はダクトの容量が足りず追加工事が必要だから、うちの予算では厳しい」といった判断がその場でできるようになります。
飲食店の資金は「設備資金」と「運転資金」に分けて考える
金融機関は、貸したお金が何に使われるかで審査も返済期間も変えます。
- 設備資金 — 造作譲渡料、内装工事費、厨房設備の工事費(排気ダクト・給排水・ガス)、業務用冷蔵庫やコンロなどの厨房機器、看板、レジ・POSシステム
- 運転資金 — 食材や酒類の仕入れ、家賃、人件費、水道光熱費、販促費
設備資金は返済期間を長く取れる代わりに、見積書や契約書で使い道を証明する必要があります。運転資金は返済期間が短めで、いくら必要かを収支計画から説明することになります。この2つを混ぜて「1,500万円借りたい」と申し込むと、審査担当者が資金使途を追えず、話が前に進みません。
居抜きとスケルトンでは、この内訳が大きく変わります。
| 居抜き物件 | スケルトン物件 | |
|---|---|---|
| 造作譲渡料 | 100万〜300万円程度が発生 | なし |
| 内装工事費 | 部分的な改修で済むことが多い | 一式必要で最も大きい |
| 厨房設備 | 既存設備を流用して圧縮できる(中古のため故障リスクあり) | 新規に導入するため高額 |
| 工期 | 短い(1〜1.5ヶ月程度) | 長い(2〜3ヶ月以上) |
| 開店前の家賃負担 | 軽い | 重い(運転資金に上乗せが必要) |
| 融資での説明のしやすさ | 造作譲渡契約書と内訳がないと使途を示しにくい | 見積書で内訳を示しやすい |
居抜きで見落とされがちなのが、造作譲渡の中身です。「厨房設備一式300万円」という契約書だけだと、融資の資金使途として説明しづらいうえに、開業後の会計処理でも困ります。冷蔵庫がいくら、フードとダクトがいくら、客席の造作がいくら、と内訳を作ってもらってください。設備ごとに耐用年数が違うため、内訳がないと減価償却の計算ができず、仕訳の起こし方も決まりません。譲渡人と交渉できるのは契約前だけなので、後回しにしないことをおすすめします。開業費用の全体像は飲食店の開業費用の内訳と予算の立て方で項目ごとに整理しています。
もうひとつ、契約日から開店日までの「空家賃」を運転資金に入れ忘れないでください。工期が2ヶ月なら、売上ゼロで家賃を2ヶ月払うことになります。
飲食店は「生活衛生関係営業」の貸付が使える
日本政策金融公庫を検討するとき、飲食業の方に必ずお伝えしているのが、飲食店営業許可を取る業態は「生活衛生関係営業」に該当するという点です。これは飲食店・喫茶店のほか、理美容業やクリーニング業なども含む区分で、一般の創業融資とは別に、生活衛生関係営業者向けの貸付制度が用意されています。
この枠を使う場合、都道府県の生活衛生営業指導センターの推薦を受ける手続きが加わります。書類が一段増えるので敬遠されがちですが、条件面のメリットが手間を上回ることは少なくありません。開業前でも相談に応じてもらえるので、物件探しと並行して指導センターに問い合わせておくと動きが早くなります。
なお、公庫の制度は改正が入ります。2024年には新創業融資制度が別の制度に統合され、自己資金の要件や限度額の扱いが変わりました。融資限度額・返済期間・金利は変動しますので、最新の内容は日本政策金融公庫の公式サイトで確認してください。制度の選び方や申し込みから入金までの流れは飲食店開業で日本政策金融公庫の融資を受けるための5つのステップにまとめています。
信用金庫は開業時より「2店舗目」で効いてくる
開業前の実績がない個人に対して、信用金庫が自らのリスクで貸す(プロパー融資)ことはあまりありません。開業時の入口は、信用保証協会の保証を付けた融資や、自治体の制度融資(区市町村が利子や保証料を補助する仕組み)になります。公庫と信用金庫から半分ずつ借りる協調融資という形もあります。
信用金庫と付き合う本当の価値は、開業してからです。
- 毎月の試算表を持参して、売上の推移と客数の動きを自分の言葉で説明する
- 売上の入金口座を寄せて、日々のお金の流れを見えるようにしておく
- 担当者が異動しても、店に足を運んでもらう関係を続ける
こうした積み重ねがあると、2店舗目の出店、フライヤーや冷蔵庫の入れ替え、繁忙期前の仕入れ資金といった場面で話が早くなります。飲食店は現金商売で日銭が入る反面、設備の更新時期にまとまった出費が来る業種です。「必要になってから初めて窓口に行く」のと「毎月顔を合わせている相手に相談する」のとでは、出てくる答えが変わります。
調達先の役割を整理すると次のようになります。
| 調達先 | 開業時 | 開業後・2店舗目 | 付き合い方のポイント |
|---|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 主力。開業前でも申し込める | 返済実績があれば追加融資の相談が可能 | 創業計画書の数字に根拠を持たせる |
| 信用金庫(保証協会付き・制度融資) | 公庫と併用して不足分を補う | 主力になっていく | 試算表の定期提出、入金口座を寄せる |
| 自己資金 | 総額の3割程度が目安 | 利益の内部留保で厚くする | 通帳に貯めた履歴を残す |
| リース・分割払い | 初期の現金流出を抑えられる | 更新時に選択肢になる | 月々の固定費が増える点に注意 |
保証協会の仕組みや保証料の考え方は信用保証協会付き融資とは?飲食店開業で使える制度と申込みの流れで解説しています。
自己資金と借入額をどう決めるか
いくら用意して、いくら借りるか。この2つは別々に考えるものではなく、セットで決めます。
自己資金は「額」より「貯まり方」を見られている
自己資金の目安は総事業費の3割とよく言われますが、審査で見られているのは金額そのものより、そのお金がどう貯まったかです。通帳に毎月コツコツ積み上がった履歴があれば、計画的に準備してきた裏付けになります。逆に、申込の直前にどこからか一括で振り込まれた資金は、いわゆる見せ金を疑われて説明を求められます。
親族から援助を受ける場合は、贈与なのか借入なのかをはっきりさせてください。贈与なら贈与契約書を作り、金額によっては贈与税の申告が必要です。借入なら借用書を作り、返済条件を決めます。曖昧なまま通帳に入金だけがある状態は、審査でも開業後の帳簿でも扱いに困ります。自己資金の作り方は飲食店開業のための自己資金を効率よく貯める方法で詳しく書いています。
借入額は「月々いくら返せるか」から逆算する
借りられる上限まで借りるのは危険です。決めるべきなのは、毎月いくらなら無理なく返せるかです。
返済の原資になるのは、売上ではなく手元に残る利益です。飲食店なら、食材原価と人件費を合わせたFL比率を60%前後、家賃を売上の10%以内に収めるのが一つの目安になります。月商300万円の店なら、FLで180万円、家賃30万円、水道光熱費・販促費・その他の経費で30万円ほど。残りは月60万円前後です。ここから生活費を取り、税金を払い、修繕に備えたうえで返済します。
減価償却費は現金の出ていかない費用なので、返済原資は「利益+減価償却費」で見ます。内装や厨房設備に多額の投資をした店ほど減価償却費が大きく、帳簿上の利益が薄くても返済に回せる現金は確保できている、というケースがあります。この構造を自分で説明できると、金融機関との面談の受け答えが変わります。
また、公庫にも信用金庫にも、返済開始を数ヶ月遅らせる据置期間があります。開業直後は売上が読めないため、設備資金の据置を交渉しておくと初動が楽になります。この点も含めた計画書の書き方は融資審査に通る飲食店の創業計画書の書き方を参考にしてください。
開業後に効いてくるのは、仕入れの回転と入金のズレ
融資が下りて開店したあと、意外に多いのが「売上は目標どおりなのに現金が足りない」という状態です。原因は、お金の出入りのタイミングにあります。
食材や酒類の仕入れは、掛けで買っていても月末締めの翌月払いが一般的です。生鮮品は現金払いの取引先もあります。一方、売上の入金はキャッシュレス決済の比率が上がるほど遅れます。クレジットカードや電子マネー、QRコード決済は、締め日から入金まで2週間から1ヶ月かかることが珍しくありません。デリバリーの手数料が引かれた残額が数週間後に入る、といった形もあります。
つまり、仕入れの支払いが先に来て、売上の回収が後から追いかけてくる期間が生まれます。ここを埋めるのが運転資金です。開業時に最低3ヶ月分、できれば6ヶ月分の固定費を手元に残しておきたいと申し上げているのは、この時間差があるからです。内装や厨房設備に予算を使い切ってしまい、運転資金がほとんど残っていない状態で開店するのが、資金繰りが行き詰まる典型的なパターンです。
日々の管理としては、決済手段ごとに未収入金として仕訳を分けておくと、「今月の売上のうち、まだ入金されていない金額はいくらか」がすぐに見えるようになります。決済手数料も手段ごとに率が違うため、分けて記録しておくと後から比較できます。
つまずきやすいところと、相談のタイミング
これまでのご相談で多かったつまずきを挙げておきます。
- 物件が決まってから融資を申し込み、入金が間に合わず契約を逃した
- 造作譲渡の内訳がなく、資金使途を説明できないまま申し込んだ
- 内装と厨房設備に予算を使い切り、運転資金がほとんど残らなかった
- 公庫と信用金庫に、数字の違う計画書をそれぞれ提出してしまった
- 借りられる上限まで借り、開業直後から毎月の返済が重くのしかかった
いずれも、申し込みの前に整理しておけば避けられるものばかりです。当事務所は認定経営革新等支援機関として、飲食店オーナーの創業計画書の作成、資金使途の組み立て、制度の選定、金融機関との面談対策までお手伝いしています。物件を探し始めた段階、あるいは「自己資金がこれだけあるが、どのくらいの規模の店なら現実的か」という段階からご相談いただくのが最も効果的です。
初回相談は30分5,000円からお受けしています。開業予定のエリアと業態、用意できる自己資金の額だけ決まっていれば、その場で資金計画の方向性をお伝えできます。ご相談はお問い合わせフォームからお願いします。
