創業計画書は「返済できること」を伝える書類
飲食店を開業するとき、多くの方が日本政策金融公庫の融資を利用します。融資審査で最も重視されるのは、売上がどれだけ上がるかではなく、「貸したお金を返せるかどうか」です。
既に営業している飲食店なら決算書で返済能力を判断できますが、これから開業する方には決算書がありません。その代わりとなるのが創業計画書です。つまり、創業計画書は「自分にはお金を返す力がある」と示すための書類だと考えてください。
自己資金が多くても、返済能力が低いと判断されれば希望額は通りません。逆に自己資金が少なくても、手堅い事業計画で生存できることを示せれば融資は受けられます。
創業計画書の9項目と記入のポイント
日本政策金融公庫の創業計画書はA4サイズ1枚の書式で、公庫のホームページからダウンロードできます。飲食業の記入例も用意されているので、まずはそちらを確認しましょう。
各項目で審査担当者が見ているポイントは次のとおりです。
| 項目 | 記入のポイント | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 1. 創業の動機 | なぜこのタイミングで開業するか、準備してきたことを具体的に | 「いつか自分のお店を持ちたかった」だけで終わる |
| 2. 経営者の略歴 | 飲食店での勤務年数・役職・調理やホールの経験・担当した業態を書く | 勤務先と年数だけで内容が薄い |
| 3. 取扱商品・サービス | ランチ・ディナーの客単価、主要メニューと売上割合を具体的に | メニュー構成が決まっていない段階で提出 |
| 4. 取引先・取引関係 | 食材の仕入先(業務用スーパー、市場、酒販店など)を記入 | 空欄のまま提出 |
| 5. 従業員 | ホール・キッチンスタッフの採用予定人数と時期 | 開業直後から採用する計画で人件費が膨らむ |
| 6. 借入の状況 | 住宅ローン・車のローンなど正直に記入 | 隠してもバレるので正直に書く |
| 7. 必要な資金と調達方法 | 内装工事・厨房設備・ダクト工事・運転資金を明細つきで | 運転資金を少なく見積もりすぎる |
| 8. 事業の見通し | 席数×回転率×客単価×稼働日数で根拠を示す | 売上を多めに書いて現実味がなくなる |
| 9. 自由記述欄 | 書ききれなかった強みや補足を追記 | 空欄のまま出してしまう |
A4の1枚だけでは書ききれないことが多いので、別紙で追加の事業計画書を作成すると説得力が上がります。
事業の見通しは「少なめの売上」で作る
審査を通すために売上を高く書きたくなりますが、実は逆です。「売上は少なめ、経費は多め」で計画書を作り、それでも返済が可能であることを示す方が信頼されます。
売上の計算式は次のとおりです。
月間売上 = 席数 × 1日の回転率 × 平均客単価 × 月間稼働日数
たとえば、席数15席・1日の回転率2.0回・ランチ客単価900円/ディナー客単価2,500円の場合を考えます。ランチとディナーの来客割合を半々とすると、平均客単価は約1,700円です。月25日稼働で計算すると、月間売上は約127万円になります。食べログやGoogleマップ、SNSでの発信、テイクアウトの展開など、集客手段と見込み客数を具体的に書くことが根拠になります。
テイクアウトやデリバリーの売上がある場合は、イートインとは別に計上しましょう。たとえば、UberEatsやテイクアウトで月15万円を見込むなら、合計の月間売上は約142万円になります。時間帯別・販売チャネル別に売上を分けて記載すると、計画の精度が伝わります。
ここで大事なのは「FL比率」と「経費の分配率」の考え方です。FL比率とは、Food(食材原価)とLabor(人件費)の合計が売上に占める割合のことで、飲食店では60%以下が健全経営の目安とされています。この数値を意識して経費を組み立てることで、売上が少なくても生存し続けられます。
個人事業主の場合
| 項目 | 金額(月額) | 売上に占める割合 |
|---|---|---|
| 月間売上 | 142万円 | 100% |
| 食材原価(30%) | 42.6万円 | 30% |
| 粗利益 | 99.4万円 | 70% |
| 人件費(アルバイト) | 28.4万円 | 20% |
| 家賃・水道光熱費・減価償却費 | 28.4万円 | 20% |
| 広告費 | 4.3万円 | 3% |
| その他経費(消耗品・衛生費等) | 7.1万円 | 5% |
| 所得 | 31.2万円 | 22% |
この例では、食材原価30%+人件費(オーナー分除く)20%で、FL比率は50%に収まっています。オーナー自身の労働分を加えても60%以下を維持できる計算です。
個人事業主の場合、オーナーの「給与」は経費になりません。売上から経費を差し引いた所得が、そのまま自分の手取り(生活費の原資)になります。所得31.2万円のうち、減価償却費(たとえば8万円)は現金の支出をともなわないので、実際に手元に残るお金は約39.2万円です。ここから毎月の返済額(たとえば8万円)を引いても約31.2万円が残り、生活費を賄える計算になります。
法人の場合は、オーナーの給与(役員報酬)を経費として計上できるため計算の仕方が変わりますが、開業時からいきなり法人を設立することはおすすめしていません。まずは個人事業主としてスタートし、事業が軌道に乗ってから法人化(法人なり)を検討するのが一般的です。どのくらいの所得水準になったら法人化を検討すべきかについては、別途ご相談ください。
配偶者に収入がある、両親からのサポートが受けられるなど、万が一の補てん手段があればさらに安心材料になります。こうした情報も面談で聞かれるので、事前に整理しておきましょう。
飲食店開業に必要な資格と届出
飲食店を開業するには、食品衛生責任者の資格が必須です。各都道府県の食品衛生協会が実施する講習(1日)を受講すれば取得できます。調理師免許や栄養士免許を持っている場合は講習が免除されます。
また、店舗の収容人数が30人以上の場合は防火管理者の選任も必要です。創業計画書の「経営者の略歴」欄に、食品衛生責任者の取得予定や、飲食業での調理・ホール経験を具体的に記載しましょう。審査担当者は「この人が飲食店を回せるか」を見ています。
設備資金の内訳を具体的に
飲食店の開業資金は、業態にもよりますが1,000〜2,000万円が相場です。「必要な資金と調達方法」の欄では、以下のような明細をつけると説得力が増します。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 内装工事(客席・トイレ等) | 300〜500万円 |
| 厨房設備(冷蔵庫・コンロ・オーブン・製氷機等) | 200〜400万円 |
| ダクト・排気・空調工事 | 100〜200万円 |
| 食器・調理器具・什器備品 | 50〜100万円 |
| 保証金・敷金 | 100〜200万円 |
| 運転資金(3ヶ月分) | 200〜400万円 |
居抜き物件を活用すれば内装工事や厨房設備のコストを大幅に抑えられますが、前テナントの設備状態を確認したうえで見積もりを取りましょう。スケルトンからの場合は工事費が膨らむため、その分を計画書に反映する必要があります。
2025年以降の制度変更で知っておくべきこと
日本政策金融公庫の創業融資はここ数年で制度が変わっています。古い情報のまま準備すると、計画書の内容がズレてしまうので注意してください。
- 旧「新創業融資制度」は2024年に廃止され、「新規開業・スタートアップ支援資金」に統合された
- 自己資金の要件(以前は融資額の10分の1以上)は撤廃された。ただし審査では引き続き自己資金の額が評価される
- 原則として無担保・無保証人で利用できる
- 金利は申込時期によって変わるため、最新の金利は公庫の金利情報ページで確認する(2026年1月時点では特別利率Aが年2.70〜4.30%程度)
- 女性、35歳未満または55歳以上の方は「女性・若者/シニア起業家資金」の対象で、優遇金利が適用される
自己資金の要件が撤廃されたとはいえ、融資希望額の30%程度は自己資金として用意しておくのが現実的な目安です。通帳で計画的に貯めてきたことが確認できると、審査担当者への印象が良くなります。
当事務所のサポート
創業計画書は数字の根拠と整合性がすべてです。売上予測、経費の配分、返済計画のバランスが取れているかを第三者の目でチェックすることで、融資の成功率は上がります。
当事務所では、飲食店の開業に必要な創業計画書の作成支援や、公庫との面談に向けたアドバイスを行っています。「数字の作り方がわからない」「FL比率の目安が知りたい」「計画書を見てほしい」という方は、お気軽にご相談ください。
